大阪市西区を拠点に、賃貸・売買・収益・管理まで幅広く手がける不動産のプロ。肩書きに頼らず、お客さま目線での「損をしない判断材料」をお伝えすることを大切にしています。
この記事でわかること
- 離婚協議書で「相手が払う」と決めても、金融機関には主張できない理由
- 連帯保証人・連帯債務者から外れるために何が必要で、なぜ難しいのか
- 元配偶者の返済が止まったとき、もう一方に何が起きるか(実際の案件から)
- 離婚の話し合いと任意売却、どちらを先に進めるべきか
離婚で家を売れないのは、残債が売値を上回るから
住宅ローンが残った家を売るには、決済のときに残債を全額返して抵当権を外す必要があります。売却代金がローン残債を下回る状態、いわゆるオーバーローンでは、この前提が崩れます。不足分を現金で用意できなければ、抵当権が外せないので所有権を移せません。「売りたくても売れない」のは、買い手がつかないからではなく、この一点です。
購入から数年しか経っていない物件ほど、この状態になりやすいのが実務の感覚です。元金がまだほとんど減っていないうえに、諸費用を含めてローンを組んでいれば、初期の数年は残債が価格を上回ったままになります。離婚の話し合いは購入から間もない時期に起きることもあり、そこが重なると選択肢が一気に狭まります。
なお、不足分を自己資金で埋める方法や住み替えローンを含めた選択肢の整理はオーバーローンでも売れるかを扱った記事で詳しく書いています。この記事では、そこから先の「離婚という事情が絡んだときに何が変わるか」に絞ってお話しします。
任意売却なら売れる理由(金融機関の同意)
任意売却は、残債を全額返せない状態のまま、金融機関の同意を得て抵当権を外してもらい売却する方法です。競売と違って市場で普通に売るため価格が極端に下がりにくく、引渡し時期もある程度こちらで組めます。鍵になるのは「同意を得る」という部分です。
この同意は、売買価格だけの話ではありません。売却代金から何にいくら充てるか、つまり仲介手数料・登記費用・滞納している管理費や固定資産税・各債権者への配当までを一覧にした配分案を出し、承認をもらってはじめて契約に進めます。売主様が「この金額で売りたい」と決められる取引ではない、という点をまず押さえていただきたいところです。
もうひとつ、離婚の場面で見落とされがちなのが共有名義なら全員の意思が必要だということです。持分を半分ずつ持っている夫婦の場合、片方だけでは売れません。連絡が取れない、話し合いに応じない、という状態になると、任意売却という選択肢そのものが使えなくなります。関係が悪化しきる前に動けるかどうかが、実は一番大きな分かれ目です。
連帯保証人から外れられるのか
結論から申し上げると、金融機関の同意なしに外れることはできません。連帯保証や連帯債務は金融機関との契約であり、夫婦間で「今後は私が払う」と決めても、それは当事者どうしの取り決めにすぎません。離婚協議書や公正証書に書いてあっても、金融機関に対しては主張できないのです。ここを誤解したまま離婚が成立してしまうケースを、何度も見てきました。
外れる方法がまったくないわけではありません。ただ、どれも相手方の協力か資力を前提とします。①残る側が単独で借換えて、そのローンで既存の債務を完済する②同等の収入と信用のある代わりの保証人を立てて金融機関の承諾を得る③売却して債務そのものを消す、という三つが現実的な道筋です。①②は審査が通るかどうか次第で、オーバーローンの物件では通らないことも多い。だから③、つまり売ることが選択肢に上がってきます。
連帯保証人がいる家の任意売却を進める手順そのものは連帯保証人がいる家の任意売却の記事にまとめていますので、立場の確認や同意の取り方はそちらをご覧ください。
連帯保証人なのか、連帯債務者なのか、ペアローンでそれぞれが主債務者なのかで、請求のされ方も外れ方も変わります。金銭消費貸借契約証書と登記事項証明書を並べて、名義と持分、債務の組み方を先に確定させてください。ご自身の認識と書面が食い違っていることは珍しくありません。
「住宅ローンは夫が負担する」という取り決めは、守られなかったときに相手へ請求する根拠にはなりますが、金融機関からの請求を止める効力はありません。取り決めを書くこと自体は必要です。ただし、それで安心しきらず、金融機関の側でも名義や保証がどうなっているかを確認する必要があります。
財産分与の請求は、離婚のときから2年を経過すると家庭裁判所へ申し立てできなくなります(民法768条2項)。オーバーローンの自宅がある場合、分けるべきプラスの財産がどれだけあるかの評価にも影響します。売却の見込み額を早めに把握しておくことが、この期限内に話をまとめる材料になります。
元配偶者が返済を止めたらどうなるか
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。実際に担当させていただいた案件をご紹介します。個人が特定されない範囲に整えていますが、起きたことの順番はそのままです。
大阪市内の築浅の区分マンションで、購入から2年ほど。ご夫婦の共有名義で持分は半分ずつ、住宅ローンも互いに責任を負う組み方でした。残債は4,800万円台、売却の見込みは4,400万円台。400万円ほど足りない、典型的なオーバーローンの状態です。
離婚から半年ほど経ったころ、ご主人側の返済が止まりました。奥様は家を出ておられ、ご主人が住み続けて返済する取り決めになっていました。ところが返済が滞り、金融機関から奥様に連絡が入ったのです。「私はもう住んでいないし、払う約束もしていない」というお気持ちは当然ですが、金融機関から見れば奥様も返済の責任を負う当事者です。取り決めの中身は関係なく、請求は来ます。
しかも困るのは、この時点でご主人はすでに何度か返済を遅らせていたことです。滞納が積み重なると期限の利益を喪失し、残債の一括請求へ進みます。奥様のご信用にも影響が出る段階に入っていました。ご相談をいただいたのはこの局面でした。
結論としては、任意売却で決済まで進めることができました。共有名義だったのでお二人の同意を取りまとめる必要があり、そこがもっとも時間を要した部分です。売却後に残った債務については、それまでの返済の経緯を踏まえてご主人側が引き継ぐ形で整理し、その先の手続きは弁護士へお繋ぎして処理していただきました。残債の負担をどう分けるか、それを法的にどう確定させるかは弁護士の領域です。私たちがやれるのは、売却の部分を最短で確実に終わらせて、判断できる材料を揃えることまでです。
この案件から申し上げたいのは、相手の返済が止まってから動くと、選べる幅がほとんど残っていないということです。滞納が始まる前、あるいは始まった直後に相談いただければ、残債はもっと小さく、信用への影響も抑えられたはずでした。返済が相手任せになっている方は、いま残高がどうなっているかを一度確認してください。金融機関に残高証明書を請求すれば、連帯債務者や連帯保証人の立場でも確認できる場合があります。
離婚と任意売却、どちらを先に進めるか
ご相談の中で意外と聞かれないのに、実は結果を大きく左右するのがこの順番です。私の考えでは、離婚の条件を固める前に、売却の見込み額と不足額を数字で出しておくのが順序として正しいと思っています。
理由は単純で、いくら足りないのかが分からないまま条件を決めると、その取り決め自体が成り立たなくなるからです。「家は夫が住んでローンも夫が払う」と決めた後で、実は不足が400万円あって夫の収入では返済を続けられないと判明すれば、決めたことをやり直すしかありません。先に数字が出ていれば、住み続けるのが無理なら売るという前提で条件を組めます。財産分与の2年という期限のなかで話をまとめるうえでも、早く数字があるほうが有利です。
一方で、任意売却の手続きそのものを離婚成立より先に完了させる必要はありません。金融機関との交渉には配分案の承認が必要で、売却活動から決済まで3〜6か月は見ておく必要があります。現実的な進め方は、①査定と残高の確認で不足額を出す ②その数字を前提に離婚の条件を決める ③並行して任意売却の準備に入るという順序です。共有名義であれば、お二人の同意が必要な書面を、関係が話し合える段階のうちに整えておくことも大切です。
逆に、滞納がすでに始まっている場合は順番を待てません。この段階なら売却の準備を先に走らせ、離婚の条件は並行して詰めるほうが損失は小さくなります。どちらの局面にいるかで判断が変わるので、まずは現状を教えてください。
大阪市西区での進め方
西区は街ごとに買主様の層が違うため、離婚に伴う売却でも進め方が変わります。靭本町・京町堀は価格が落ちにくく実需の買主様が中心なので、時間をかけて条件を整える余地があります。話し合いに時間が必要なご夫婦の場合、このエリアの物件であれば焦って値を下げずに済むことが多い。
南堀江・新町は競合が多い反面、見せ方を整えると反応が早く出ます。決済の期日を先に決めてから逆算する進め方が取りやすいエリアです。阿波座は交通利便を評価する買主様が多く、築年数が経った物件でも動きます。いずれの場合も、共有名義なら必要書類にお二人の署名・押印が必要になるため、どのタイミングで何を揃えるかを最初に一覧でお示しするようにしています。
あわせて線引きもお伝えしておきます。財産分与の取り決めや残債の負担割合を法的に確定させることは弁護士、抵当権抹消と所有権移転の登記は司法書士、譲渡所得や債務免除にかかる税金の判断は税理士の領域です。私たちの役割は、いまの相場と売却の見通しを正直にお伝えし、金融機関との配分交渉を進め、決済を確実に着地させるところにあります。プライバシーには十分配慮して対応しますので、ご近所に知られたくないというご希望も遠慮なくお伝えください。
よくあるご質問
Q. 離婚協議書に「ローンは元夫が払う」と書いてあります。私に請求は来ませんか。
協議書は当事者どうしの取り決めなので、金融機関に対しては主張できません。連帯保証人や連帯債務者であれば、返済が滞れば請求は届きます。協議書は守られなかったときに相手へ請求する根拠として意味がありますが、請求を止める効力はない、と理解しておいてください。
Q. 元配偶者と連絡が取れません。それでも任意売却できますか。
共有名義の場合、売却にはお二人の同意が必要なため、連絡が取れない状態では進められません。単独名義で相手が連帯保証人という形なら、金融機関との交渉で進む場面もあります。まずは登記事項証明書とローン契約書で名義と債務の組み方を確認させてください。
Q. 任意売却で残った借金は、元配偶者に全部負担させられますか。
当事者間で誰がどれだけ負担するかを合意することはできますが、金融機関に対しては連帯保証や連帯債務がそのまま残ります。負担割合を法的に確定させ、相手に履行させる手続きは弁護士の領域です。実務では、売却の部分をこちらで終わらせ、残債の整理は弁護士におつなぎする形をとることが多いです。
靭本町・京町堀・南堀江・新町・阿波座を中心に、離婚に伴う不動産売却・任意売却・住宅ローンの滞納に関するご相談へワンストップで対応しています。