この記事を書いた人:シゲッチ(重村裕一)
株式会社クレアクロス 代表取締役/宅地建物取引士。大阪市西区靱本町を拠点に、賃貸の仲介・管理から売買・収益物件まで実務にあたっています。相談実績1,100件超。大阪府知事免許(2)第62025号。
この記事でわかること
- オーナーが家賃を値上げできる3つの法的根拠(借地借家法32条)
- 根拠ごとに揃えるべき資料と、通知を出す時期・書き方
- 入居者に断られたときの流れ(法定更新・供託・調停・差額精算)
- 「いま値上げする」と「退去後に募集賃料を見直す」の手残り比較
固定資産税や修繕費、管理費が上がっているのに、家賃は入居時のまま。大阪市西区で賃貸物件をお持ちのオーナーさまから、ここ1〜2年でこうしたご相談が明らかに増えました。
最初に、言いにくいことからお伝えします。家賃の値上げは、入居者の合意か、調停・裁判を経なければ確定しません。そして、周辺相場との差がそのまま全額認められるとは限りません。だからこそ、通知を出す前の準備で結果が大きく変わります。この記事では、値上げを通すための手順を、オーナーさまの側から順番に整理します。なお本記事は一般的な情報です。個別の判断は弁護士等の専門家にご確認ください。
オーナーは家賃を値上げできる?
できます。ただし、借地借家法第32条1項が定める3つの事由のいずれかに当てはまることが条件です。家賃(借賃)が次の理由で「不相当」になったとき、オーナーは将来に向かって増額を請求できます。
- 土地・建物の租税その他の負担が増えた(固定資産税・都市計画税など)
- 土地・建物の価格の上昇その他の経済事情が変動した(地価・物価の上昇など)
- 近隣の同種の建物の家賃と比べて不相当になった(周辺相場より明らかに安いなど)
反対に、契約書に「一定期間は家賃を増額しない」という特約がある場合、その期間中は増額を請求できません(同条1項ただし書)。通知の前に、まず契約書の「賃料」「賃料改定」の条項を確認してください。また、「オーナーが変わったから」「ローンの返済が苦しいから」という理由だけでは、値上げの根拠になりません。
値上げの根拠として、どんな資料を揃えればいい?
3つの事由ごとに、第三者が見ても数字で確認できる資料を用意します。「上がっている気がする」では、入居者も調停委員も納得しません。
| 根拠 | 揃える資料 | 注意点 |
|---|---|---|
| 税負担の増加 | 前回の家賃改定時と現在の固定資産税・都市計画税の納税通知書 | 比べるのは「前回改定時」と「現在」 |
| 経済事情の変動 | 公示地価・基準地価の推移、消費者物価指数、修繕費の見積書 | 公的データで示すと説得力が出る |
| 近隣相場との差 | 同じ町名・同程度の築年数・面積・駅距離の賃料事例3〜5件 | 募集賃料は成約賃料より高めに出やすい |
特に3つ目の相場資料は、比べ方が肝心です。大阪市西区は、靱本町・京町堀のオフィス近接エリアと、南堀江・北堀江の商業エリアで、同じ広さでも賃料の付き方が違います。「西区の平均」ではなく、町名・築年数・駅距離が近い物件同士で比べてください。ポータルサイトの募集賃料は、実際に決まった成約賃料より高めに出ることが多い点にも注意が必要です。不動産会社に依頼すれば、成約事例をもとにした資料を用意できます。
値上げの通知は、いつ・どうやって出す?
更新の2〜3ヶ月前を目安に、書面で、根拠資料を添えて伝えるのが基本です。法律上の決まった期限はありませんが、入居者が考える時間を取れないと、内容の前に「急に言われた」という反発が先に立ちます。
通知書には、次の4点を入れます。
- 現在の家賃と、改定後の家賃(いつから)
- 値上げの理由(3つの事由のどれに当たるか)
- 根拠資料(納税通知書の写し、相場事例など)
- 問い合わせ先と、話し合いに応じる姿勢
増額の請求は、通知が入居者に届いた時点から効力が生じると考えられています。後で「受け取っていない」と言われないよう、まずは丁寧な書面で伝え、話し合いがこじれた段階で内容証明郵便に切り替えるのが現実的です。最初から内容証明で送ると、入居者に「争う気だ」と受け取られやすいからです。
いくらまで値上げできる?
継続中の契約の家賃(継続賃料)は、新規募集の家賃ほどは上がらないのが一般的です。調停や裁判では、新規の相場だけでなく、これまでの家賃の経緯や契約時の事情も考慮されます。そのため、相場との差額がそのまま認められるとは限りません。
実務では、相場との差を一度に埋めるより、差の一部を、根拠を示して提案するほうが合意に至りやすい傾向があります。「今回は差額の半分程度、次の更新で改めて相談」と段階を踏むのも一つの方法です。
入居者に値上げを断られたら、どうなる?
値上げを断られたことを理由に、退去を求めたり更新を拒んだりすることはできません。普通借家契約では、合意できないまま更新日を迎えると、従前と同じ条件で更新されたものとみなされます(法定更新。期間の定めのない契約になります)。
その後の流れは次のとおりです。
- 入居者は従来の家賃を払い続ける:入居者は、自分が相当と考える額(通常は従来の家賃)を払えば足ります(借地借家法32条2項)。
- オーナーは受け取りを拒まない:受け取りを拒むと、入居者は法務局に供託でき、支払ったのと同じ扱いになります。受け取ったうえで「増額分は引き続き協議中」と書面で伝えておけば、権利は失われません。
- 話し合いで合意できなければ調停へ:家賃の増減をめぐる争いは、訴訟の前にまず簡易裁判所の民事調停を申し立てる決まりです(調停前置主義・民事調停法24条の2)。
- 増額が確定したら差額を精算:調停や裁判で増額が正当と確定すると、入居者は不足分に年1割の利息を付けて支払う必要があります(借地借家法32条2項ただし書)。
調停や訴訟の手続き、書面の作成は弁護士の領域です。当社では、相場資料の準備や入居者さまとの話し合いの整理までをお手伝いし、争いになる場合は弁護士と連携して進めます。
定期借家やサブリースの場合は違う?
定期借家契約は、期間満了で契約が終わり、再契約時の家賃をあらためて合意で決めます。また、契約に賃料改定の特約があれば、借地借家法32条の増減額請求の規定は適用されません(同法38条)。値上げを前提にした運用を考えるなら、次の募集から定期借家にする方法もあります。
サブリース(一括借り上げ)の場合、オーナーの相手方は入居者ではなくサブリース会社です。契約書の賃料改定条項が交渉の出発点になります。サブリース会社の側から減額を求められるケースもあるため、条項の内容は早めに確認しておいてください。
いま値上げするのと、退去後に家賃を見直すのと、手残りが多いのはどっち?
長く住んでくれている入居者がいるなら、多くの場合「小幅な値上げで住み続けてもらう」ほうが手残りは多くなります。退去には、空室期間・広告料・原状回復という目に見えにくいコストがかかるからです。
家賃8万円、周辺相場8.6万円の部屋で比べてみます(数字は説明のための仮の例です)。
| A:月4,000円の値上げで合意 | B:値上げを機に退去、相場で再募集 | |
|---|---|---|
| 増える家賃 | 年4.8万円 | 年7.2万円(月6,000円増) |
| 退去に伴う費用 | なし | 空室2ヶ月16万円+広告料8万円+原状回復10万円=34万円 |
| 費用を取り戻すまで | 初月からプラス | 約57ヶ月(4年9ヶ月) |
Bは家賃が上がる分だけ得に見えますが、退去にかかった34万円を取り戻すのに5年近くかかります。しかも、再募集で必ず相場どおりに決まるとは限りません。値上げは「上げられるか」だけでなく、入居者に住み続けてもらえる幅かどうかで考えるのが、結果的に手残りを守る判断になります。
クレアクロスがお手伝いすること・しないこと
お手伝いすること
- 西区の成約事例をもとにした、近隣相場の資料づくり
- 値上げ幅が妥当か、退去リスクと比べた見通しの整理
- 入居者さまへの通知書の文案づくりと、話し合いの窓口
しないこと
- 根拠のない値上げの提案や、通知の代行
- 退去をちらつかせて合意を迫る交渉
- 調停・訴訟の代理(弁護士と連携します)
相場から見て値上げが難しい物件であれば、そうお伝えします。値上げより、設備の見直しや募集条件の工夫のほうが手残りに効くこともあるからです。
よくあるご質問
Q. 更新のときでないと値上げできませんか?
A. いいえ。増額の請求は契約期間の途中でもできます。ただ、入居者さまが受け止めやすく話し合いの機会も作りやすいため、実務では更新のタイミングに合わせることが多いです。
Q. 入居者全員に一律で値上げしてもいいですか?
A. 一律にすること自体は可能ですが、部屋ごとに現在の家賃と相場の差は異なります。根拠は部屋ごとに説明できるようにしておくのが安全です。
Q. 値上げを拒んだ入居者の家賃は受け取らないほうがいいですか?
A. 受け取ってください。受け取りを拒むと供託され、結果は同じです。受け取ったうえで、増額分は協議中であることを書面で伝えておけば足ります。
Q. 固定資産税が上がった分だけなら、そのまま上乗せできますか?
A. 税負担の増加は根拠の一つになりますが、増えた税額がそのまま家賃に上乗せされるとは限りません。相場や経緯も含めて総合的に判断されます。税額の計算や確定申告は税理士にご確認ください。
Q. 管理をお願いしていない物件でも相談できますか?
A. はい。相場資料の確認だけでもご相談いただけます。管理会社の変更をすすめることはありません。
値上げの前に、まず相場を確認しませんか
「上げられるのか」「上げても住み続けてもらえるのか」。
西区の賃貸を見てきた立場から、正直にお伝えします。Googleクチコミ★5.0。