株式会社クレアクロス代表取締役。大阪市西区で賃貸・売買・収益・管理まで幅広く不動産の相談を受ける。肩書きより「自分の家族に勧められるか」を判断のものさしにしている。
- 購入申込書(買付証明書)に一般に法的拘束力がなく、「一番手」も法律上の優先権ではないこと
- 指値を受けるかどうかを、気持ちではなく「根拠」と「売れ残りの時間」で判断する手順
- 手付金の額が解約のしやすさを左右する理由(民法557条の解約手付と倍額の現実の提供)
- ローン特約の期日・借入予定額・事前審査を契約前に確認しておく意味
- 大阪市西区(靭本町・新町・南堀江・京町堀・阿波座)で申込の入り方がどう違うか
「売り出して3週間、やっと購入申込が入りました。でも300万円下げてほしいと書いてあって……受けるべきでしょうか」。大阪市西区で売却のご相談を受けていて、売主さまの気持ちがいちばん揺れるのがこの場面です。待った末の申込だからこそ、その日のうちに答えを出したくなる。けれども申込書に書かれているのは金額だけではありません。手付金の額、決済の希望日、住宅ローンを使うかどうか。どれも、売主さまの手取りと「本当に引渡しまでたどり着けるか」を左右する条件です。この記事では、買付証明書が届いてから売買契約を結ぶまでに売主さまが決めるべきことを、西区の現場目線で順に整理します。買主側から見た値引き交渉の通り方は別の記事にまとめていますので、ここでは売る側の判断に絞ります。
買付証明書は契約ではない。だから金額以外を読む
購入申込書は、買付証明書や購入申込証という名前で届くこともあります。いずれも買主さまが「この条件で買いたい」という意思を示す書面で、これ自体は売買契約ではありません。一般的には法的な拘束力はないものと扱われ、売主さまが差し入れる売渡承諾書も同じ性質です。つまり申込が入った時点では、売ることも買うことも、まだ誰も約束していない状態です。
ここを押さえておくと、見える景色が変わります。買主さまが翌日に撤回することもありますし、交渉している間に別の方からより良い条件の申込が入ることもあります。「一番手」「二番手」という言い方は業界の慣行で、法律上の優先権ではありません。先に申込んだ方を優先するかどうかは、売主さまが決められる事柄です。
逆の見方もしてください。拘束力がないということは、申込書の金額だけで安心できないということでもあります。満額の申込が入って喜んだものの、ローンの事前審査すら通していなかった、というケースは珍しくありません。だから申込書を受け取ったら、金額のほかに「なぜその金額なのか」「いつ契約・引渡しを希望しているか」「資金はどう組むのか」まで、仲介会社を通して確かめます。この三点が揃わない申込は、金額が高くても確実性が低い申込です。
指値に応じるかは、根拠と時間の二軸で決める
値下げ交渉(指値)が入ったとき、判断の材料になるのは次の三つです。第一に、近隣の成約事例と比べて売出価格に無理がないか。第二に、売り出してからの期間と、問い合わせ・内覧の数。第三に、買主さまが挙げた値下げの理由に根拠があるか、です。
三つ目はとくに大事です。「リフォームに400万円かかるので300万円引いてほしい」という申込には、見積書という形のある根拠があります。一方で「予算がこれだけなので」という理由は、売主さま側で検証できません。根拠のある指値は、全部飲むか断るかではなく、工事内容を絞って半額で折り合う、という調整の余地があります。
そして時間です。以前、大阪市内のマンションで、売主さまが「100万円でも下げるのは嫌だ」と申込をお断りしたことがありました。その後3か月ほど反響が途絶え、結果として最初の申込より低い金額で成約しました。断った判断自体が誤りだったとは思いません。ただ、3か月分の住宅ローンと管理費、固定資産税を負担したうえで価格も下がったという事実は、はじめに並べて検討しておくべき材料でした。逆に、売り出した直後で内覧が続いている時期なら、無理に応じる必要はありません。反響が落ちていない段階の指値は、断っても次が来ます。
金額以外での歩み寄りも選択肢です。「50万円までなら」「引渡し時期をこちらの住み替えに合わせてもらえるなら」「エアコンと照明は現況のままお渡しする条件なら」。売主さまにとって負担の軽い譲歩と、買主さまにとって価値のある譲歩は、必ずしも同じではありません。そこを探すのが仲介会社の仕事だと考えています。
申込を受けたら、売主はこの順で決める
申込書には有効期限が書かれていることがありますが、売主さまが「いつまでに答える」と先に決めておくほうが落ち着いて検討できます。即答すると、条件の見落としに気づいたときに戻れません。逆に何日も黙っていると、買主さまの購入意欲は冷めます。実務では二、三営業日を目安に、「○日の夕方までにお返事します」と仲介会社から伝えてもらうのが収まりがよいです。その間に家族で話し、資金計画に照らして手取りを確認する時間が取れます。
手付金は、一般的に売買価格の5〜10%程度が目安で、通常は解約手付として扱われます。相手方が契約の履行に着手するまでは、買主さまは手付金を放棄して、売主さまは手付金の倍額を現実に提供して、契約を解除できます(民法557条)。ここから分かるのは、手付金が少なすぎると買主さまにとって手を引くハードルが低くなるということです。10万円の手付で契約すれば、買主さまは10万円を置いて離脱できます。売主さまはその間、他の購入希望者をお断りしている。金額の高さと手付の薄さが同時に来た申込は、慎重に見るべき組み合わせです。
住宅ローンを使う買主さまの場合、ローン特約(融資利用の特約)を付けるのが一般的です。期日までに融資の承認が得られなければ契約は白紙となり、手付金は買主さまに返還されます。売主さまにとって重要なのは期日の長さです。承認期日が契約から2か月先に設定されていれば、その2か月間は次の買主さまを探せないまま、白紙になる可能性を抱えることになります。確認するのは、事前審査を通過しているか、どの金融機関か、借入予定額は売買価格に対していくらか、そして特約の期日です。事前審査済みで自己資金も入っている申込なら、期日を短めに設定してもらう交渉ができます。
売買価格から、仲介手数料、抵当権抹消の登録免許税や司法書士報酬、印紙代、固定資産税の精算、そして住宅ローンの残債を引く。残った金額が手取りです。住み替えなら次の物件の頭金に足りるか、相続した家なら相続人間で分ける金額に影響します。この数字を先に出しておけば、「あと50万円は下げられるが、それ以上は住み替えが成立しない」という線が自分の中で引けます。線を持たずに交渉に入ると、場の勢いで決めてしまい、後で後悔します。譲歩の幅は、感覚ではなく計算から出します。
同じ価格でも、条件次第で手取りと確実性は変わる
申込が同時期に二件入ることもあります。金額だけを並べると判断を誤りますので、条件全体を一覧にして見比べてください。下の表は、実務でよく出会う三つの型を並べたものです。
| 確認項目 | 満額・ローン利用(事前審査なし) | 指値あり・現金 | 指値あり・事前審査済み |
|---|---|---|---|
| 売買価格 | いちばん高い | 下がる | やや下がる |
| 白紙になる可能性 | ローン特約で残る | 特約がなければ小さい | 期日を短くできれば小さい |
| 決済までの期間 | 審査次第で長い | 短くしやすい | 1か月〜1か月半が目安 |
| 手付金の傾向 | 薄い例がある | 厚めになりやすい | 自己資金の額で変わる |
| 売主が確認すべき点 | 事前審査の有無と特約期日 | 資金の裏づけと使用目的 | 借入予定額と金融機関 |
「金額は高いけれどローン審査に不安がある方」と「少し安いけれど現金で早く決まる方」。どちらが売主さまにとって良い買主さまかは、住み替えの時期や残債の状況によって変わります。住み替え先の契約が決まっていて期日が動かせないなら、確実性に重みを置くことになります。急ぐ理由がないなら、価格を取る判断も十分あり得ます。大切なのは、仲介会社に「どちらが良いですか」と丸投げせず、自分の事情を伝えて材料を出してもらうことです。
大阪市西区では、街ごとに申込の入り方が違う
西区は街の性格がはっきり分かれていて、入ってくる申込の型も変わります。靭本町・京町堀は管理の行き届いたファミリー向けマンションが多く、住み替えを前提にした実需の買主さまが中心です。この層は住宅ローンを使う方がほとんどですから、申込書に事前審査の結果が添えられているかどうかで確実性が大きく変わります。学校の学区や通勤動線を理由に「この建物でなければ」と決めて来られる方も多く、指値が入っても根拠を示せば歩み寄りが成立しやすい印象です。
南堀江・新町はデザイン性の高いコンパクトな住戸が多く、投資目的の買主さまからの申込が混ざります。現金あるいは短期決済の提案が出やすい一方、利回りから逆算した指値が入りますので、価格は近隣の成約事例よりも賃料水準に引っ張られます。実需の方と投資の方の申込が同時に並んだときは、価格と確実性のどちらを取るかという、まさにこの記事の判断になります。
阿波座は複数路線が使える利便性から単身・DINKS向けの供給が厚く、相続で引き継いだ区分マンションの売却相談が目立つエリアです。相続人が複数いる場合、申込への回答そのものに共有者全員の意向をまとめる時間が必要になりますから、回答期限は少し長めに設定しておくほうが安全です。遺産分割協議が終わっていない段階で申込を受けると、契約日に全員の署名が揃わないという事故が起きます。
もうひとつ、売主さまにお伝えしたいことがあります。申込を断ることは、悪いことではありません。ただ、断る理由が「気分」なのか「計算」なのかは、ご自身で区別しておいてください。計算のうえでの「待つ」という判断なら、三か月後に価格が下がっても納得できます。気分で断った場合は、同じ結果でも後悔が残ります。仲介会社の役目は、申込をただ取り次ぐことではなく、売主さまが納得して決められる材料をそろえることだと考えています。
よくある質問(FAQ)
A. 申込書は一般に法的拘束力がないものと扱われますので、売主さまが応じないという判断は可能です。売渡承諾書を差し入れる前であれば、価格や条件が合わないとしてお断りしても差し支えありません。ただ、断った後に同じ買主さまが戻ってくるとは限りませんし、反響の波が引く時期もあります。断る前に、近隣の成約事例と直近の内覧数を一度並べてご確認ください。個別の法的効果の最終判断は弁護士の領域です。
A. 一般的には売買価格の5〜10%程度が目安とされます。買主さまの自己資金の都合で下回ることもありますので、金額だけでなく「なぜその額なのか」を確認してください。解約手付として扱われる場合、買主さまは手付金を放棄して契約を解除できますから、手付が薄いほど離脱のハードルは下がります。手付金の額、ローン特約の期日、決済日の三点はセットで調整するのが実務です。
A. 「一番手」は業界の慣行で、法律上の優先権ではありません。売買契約を結ぶ前であれば、売主さまが条件の良い申込を選ぶことは可能です。もっとも、交渉を進めていた相手に対する信義の問題は残りますし、乗り換えた先がローン特約で白紙になれば振り出しに戻ります。金額差だけでなく、資金の確実性と決済時期を並べて比べてください。判断に迷われる場面ですので、仲介会社に両方の条件を書面で並べてもらうことをおすすめします。
株式会社クレアクロスは大阪市西区で賃貸・売買・収益・管理をワンストップで扱う不動産会社です。購入申込への回答、契約条件の組み立て、引渡しまでの段取りまで通してお手伝いします。売り出す前の段階でお悩みの方は媒介契約の選び方もあわせてご覧ください。