この記事を書いた人/重村裕一(しげむら ゆういち)
株式会社クレアクロス 代表取締役・宅地建物取引士。大阪市西区を拠点に、賃貸・売買・収益物件・賃貸管理まで一貫して対応しています。相続のご相談では、税理士・司法書士・弁護士と連携しながら、その判断の前提になる「いまの家がいくらで売れるか」「将来売りにくくならないか」を正直にお伝えすることを信条にしています。
この記事でわかること
- 配偶者居住権が「住む権利」と「所有権」を切り分ける仕組みであること(民法1028条・1030条)
- 設定登記をしないまま所有者が売却・担保設定をすると、住む権利を主張できなくなる理由
- 施設入所などで「空いた実家を売りたい」となったとき、動けなくなる3つの理由
- 合意解除や放棄で対価を払わないと、贈与税の問題が生じうるという実務
- 大阪市西区で設定を決める前に、ご家族で確かめておきたいこと
大阪市西区エリアの相続・売却サポート実績
相続対応100件超
靭本町・新町・南堀江・京町堀・阿波座を中心に、地域密着でご相談に対応しています
「父が亡くなりました。母はこのまま実家に住みたいと言っていますが、家を母の名義にすると、母の手元に預金がほとんど残らないんです」。大阪市西区で相続のご相談をお受けしていると、こうしたお悩みに行き当たります。遺産の大半が自宅というご家庭は、大阪市内でも珍しくありません。この二択をやわらげる制度として2020年4月1日に施行されたのが配偶者居住権です。制度の説明は世の中にたくさんありますので、この記事では不動産会社の立場から、あえて「将来売る・住み替える」という出口の目線に絞ってお話しします。設定すること自体の是非ではなく、設定したあとに何が起きるかを知っておいていただきたいのです。
「住む権利」と「所有権」を切り分けると何が変わるか
配偶者居住権は、亡くなった方の配偶者が、相続開始時に住んでいた建物に、原則として亡くなるまで無償で住み続けられる権利です(民法1028条・1030条)。自宅の所有権はお子さんが相続し、お母さまは住む権利だけを取得する。住む権利の評価額は所有権そのものより低くなるため、その差額分だけお母さまが預貯金を多く受け取れる可能性があります。
取得できるのは、遺産分割協議・遺贈・家庭裁判所の審判などによる場合です。遺言で残すなら「遺贈する」という形にする必要があり、「相続させる」という書き方では設定できないとされています。文言ひとつで結論が変わる領域ですので、必ず司法書士や弁護士に確認しながら進めてください。また、亡くなった方が配偶者以外の方と建物を共有していた場合には設定できません。二世帯住宅の持分がご兄弟に分かれている、といったケースはここで引っかかります。
不動産の目線で押さえておきたいのは、この切り分けによって一つの家に二人の当事者が生まれるということです。所有者は名義を持っていても自由に使えず、住んでいる方は名義を持っていないので売れない。どちらか一方だけでは動かせない状態が、お母さまがお亡くなりになるまで続きます。制度の恩恵と不自由さは、同じ仕組みの裏表です。
設定登記をしなければ、住まいは守られない
配偶者居住権は、登記をしてはじめて第三者に対抗できます(民法1031条)。遺産分割協議書に書いただけでは、家族の間の約束にとどまります。もし所有者になったお子さんが登記をしないまま建物を売却したり、事業資金の借入の担保に入れたりすると、お母さまは買主や金融機関に対して住む権利を主張できなくなるおそれがあります。
現場で心配になるのは、善意でも起こりうるという点です。お子さん自身の住宅ローンの審査で親名義の不動産を担保に求められた、事業で急に資金が必要になった。そうした場面で、登記のない住む権利は守りの効きが弱くなります。遺産分割がまとまったら、相続登記と配偶者居住権の設定登記をセットで済ませる。順番を空けないことが唯一の備えです。登記は建物のみに入り、敷地には入りません。この点も司法書士の先生と確認しておきたいところです。
なお、遺産分割が終わるまでの間は配偶者短期居住権によって一定期間は無償で住めます。ただしこれは名前が似ているだけの別制度で、長く住み続けられる保障ではありません。「とりあえず住めているから大丈夫」と協議を先延ばしにしているご家庭は、ここを混同していることが多いように感じます。
「やっぱり売りたい」ときに動けなくなる3つの理由
1譲渡できず、承諾なしに貸すこともできない
配偶者居住権は他人に譲渡できません(民法1032条2項)。所有者の承諾なしに第三者へ賃貸することもできません。つまり、お母さまが施設に移られて家が空いても、その住む権利を誰かに売って費用に充てる、人に貸して家賃収入にする、という発想が最初から封じられています。空き家のまま維持費だけが出ていく形になりやすい点が、いちばん見落とされます。
2権利が付いたままの建物を買う方はまずいない
所有権だけなら売れるのでは、と思われるかもしれません。制度上は売買できますが、買主から見れば「代金を払っても住めず、自分で使えるのはいつになるか分からない」物件です。私の実感としても、市場で値付けができる商品にはなりません。結果として、売るには先に配偶者居住権を外す必要が出てきます。消滅させるには、合意解除、放棄、存続期間の満了、配偶者の死亡といった道筋になります。
3外すときに贈与税、そして成年後見の話が出てくる
合意解除や放棄で権利を外すと、所有者であるお子さんは制約のない完全な所有権を手に入れます。このとき対価を支払わないと、配偶者から所有者への利益の移転として贈与税の問題が生じることがあります。さらにその頃、お母さまの判断能力が低下していれば、意思表示そのものができず成年後見人の選任が必要になります。申立てから選任までには時間がかかり、居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可も必要です(民法859条の3)。施設費用の支払いに間に合わせたいという場面と、いちばん相性が悪い組み合わせです。
3つの住まい方を表で比べる
お母さまに住み続けていただく方法は、配偶者居住権だけではありません。出口の自由度という一点で並べると、選びやすくなります。
| 方法 | 預貯金の取り分 | 売るときの動きやすさ | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 配偶者が自宅を相続 | 少なくなりやすい | 本人の判断だけで売れる | 二次相続の課税や分け方が次の課題になる |
| 配偶者居住権を設定 | 多く残しやすい | 権利を外さないと売りにくい | 設定登記が必須。外すときに贈与税や後見の論点 |
| 子が相続し親が無償で住む | 多く残しやすい | 所有者の判断で動かせる | 住み続けられる保障が弱い。家族の関係に依存する |
大阪市西区で決める前に確かめておきたいこと
設定を考えるときは、制度の中身よりも、ご家族の時間軸を先に話し合っていただきたいと思っています。この家にあと何年住めそうか。施設に入る可能性はどのくらいあるか。そのとき家をどうするか。この3つが揃っていれば、設定するかどうかの判断はかなり楽になります。逆に、ここを詰めずに評価額の有利さだけで決めると、数年後に身動きが取れなくなります。
大阪市西区の事情も、判断に効いてきます。靭本町・京町堀・阿波座は本町や中之島のオフィス街まで歩いて通える立地で、新町・南堀江は住宅需要が根強いエリアです。土地の評価が高く出やすい地域ですから、建物が築古でも売却の選択肢は現実的に残ります。言い換えると、「売ってまとまった資金を作る」という出口の価値が大きい地域でもあります。その出口を自ら狭める設定になっていないか、一度立ち止まる意味は十分にあると思います。
区分マンションの場合は、管理状態と駅徒歩圏がそろっていれば中古市場での評価は落ちにくい傾向です。一方で、戸建てや築古の長屋では、空き家のまま数年置くことによる傷みが価格に直接響きます。住む予定のない家に居住権が付いたまま時間が過ぎる、という状態は金額面でも不利に働きます。評価額や税金の判断は税理士、登記は司法書士の領域です。私たちがお手伝いできるのは、この家がいま、そして将来いくらで売れそうかを正直にお伝えすること。その数字が、ご家族の話し合いの出発点になります。
よくあるご質問
Q. 配偶者居住権を、期間を区切って設定することはできますか?
原則は配偶者が亡くなるまでの終身ですが、遺産分割協議や遺言で「10年間」などの存続期間を定めることもできるとされています。期間満了で権利は消滅し、延長はできないと整理されていますので、短く設定すれば出口は作りやすくなる一方、住まいの保障は弱まります。評価額も期間によって変わってきますので、年数の置き方は税理士・司法書士と一緒に検討してください。
Q. 母が施設に入ったら、配偶者居住権は自然になくなるのでしょうか?
住まなくなっても自動的には消滅しません。合意解除や放棄といった手続きを踏むか、存続期間の満了を待つことになります。施設入所と同時に家を売る前提で考えていると、この段差でつまずきます。入所の見込みが立った段階で、所有者であるお子さんと費用負担や売却方針をあわせて話し合い、必要であれば司法書士に手続きの段取りを相談しておくのが安全です。
Q. 建物の固定資産税や修繕費は、どちらが負担するのでしょうか?
配偶者は建物の通常の必要費を負担するとされており、固定資産税に相当する部分や日常的な修繕はお母さま側の負担として整理されるのが一般的です。一方で、大規模修繕のような費用は所有者側の負担と考えられます。納税通知書は所有者に届くため、実務では立替えと精算の形になりやすく、誰がいくら払うのかを最初に書面で決めておくと後の揉め事を減らせます。
設定を決める前に、出口の数字を確かめませんか
大阪市西区の実家について、「いまいくらで売れそうか」「将来売りにくくなる条件はないか」を宅地建物取引士が正直にお伝えします。評価額や税額は税理士、登記は司法書士の領域ですので、必要に応じて専門家へのおつなぎもいたします。ご相談だけでも構いません。
関連情報
- 対応エリア:大阪市西区(靭本町・新町・南堀江・京町堀・阿波座ほか)および大阪市内全域
- 遺産分割・遺言の法的判断は弁護士、登記は司法書士、相続税・贈与税の税額は税理士の業務範囲です
- 本記事は2026年10月時点の法令にもとづく一般的な整理です。個別の事情により結論は変わります