この記事を書いた人/重村裕一(しげむら ゆういち)
株式会社クレアクロス 代表取締役・宅地建物取引士。大阪市西区を拠点に、賃貸・売買・収益物件・賃貸管理まで一貫して対応しています。相続や生前贈与がからむご相談では、税理士・司法書士・弁護士と連携しながら、その前提になる「いまの家の価値」と「将来売れるかどうか」を正直にお伝えすることを信条にしています。
この記事でわかること
- 長男に贈与した実家が、相続のときに遺産へ「持ち戻される」仕組み(民法903条の特別受益)
- 親が持戻し免除の意思を示しても、ご兄弟の遺留分までは消せない理由
- 遺留分が足りないと、家の持分ではなく金銭で請求される(遺留分侵害額請求)という実務
- 名義を動かす前にしておく3つの準備と、兄弟間の念書が効かない理由
- 大阪市西区の実家で、想定より金額が大きくなりやすい事情
大阪市西区エリアの相続・生前贈与サポート実績
相続対応100件超
靭本町・新町・南堀江・京町堀・阿波座を中心に、地域密着でご相談に対応しています
「元気なうちに、同居してくれている長男に家を贈与しておきたい」。大阪市西区で生前贈与のご相談をお受けしていると、本当によく出てくるお話です。贈与税がいくらかかるか、登記費用はどれくらいか、売るときの税金はどうなるか。そこまでは皆さん熱心に調べてこられます。ところが、名義を移した時点では何も起きないのに、相続が始まった瞬間に「話が違う」とご兄弟の間がこじれてしまうご家族を、現場で何度も見てきました。今回は税金ではなく、見落とされがちなご兄弟の間の公平という視点から、名義を動かす前に押さえておきたい法律の枠組みを整理します。
贈与した実家は、相続のときに遺産へ「持ち戻される」
まず押さえておきたいのが、生前贈与は「渡したら終わり」ではないということです。民法903条は、相続人が生前に生計の資本として受けた贈与を特別受益と位置づけ、遺産分割の際には原則としてその贈与分を遺産に持ち戻して各自の取り分を計算すると定めています。実家をもらった長男だけが有利にならないよう、法律側で公平を取り戻す仕組みが用意されている、という理解でよいと思います。
具体的な数字で見ると、驚かれる方が多いところです。たとえば評価3,000万円の実家を長男に贈与しておき、お亡くなりになったときの預貯金が1,000万円、相続人は長男と次男のお二人だとします。贈与分を持ち戻すと遺産は4,000万円とみなされ、取り分はそれぞれ2,000万円。長男はすでに3,000万円分を受け取っているため、残った預貯金1,000万円はすべて次男が受け取る、という整理になります。「家は長男、預金は兄弟で半分ずつ」と考えていたご家族ほど、この計算でつまずきます。
もちろん、親御さんが「持ち戻さなくてよい」という意思を示すこともできます。これを持戻し免除の意思表示と呼びます。口頭でも成立しうるものですが、後になって「そんな話は聞いていない」という争いに発展しやすいため、遺言など書面で残しておくのが確実です。なお、婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産を贈与した場合には、この免除の意思があったものと推定される規定が置かれています(民法903条4項)。お子さまへの贈与には、この推定は働きません。
持戻し免除をしても「遺留分」は消せない
ここが、ご相談のなかでいちばん誤解の多いポイントです。持戻し免除の意思を遺言で示しておけば、もう安心と思われがちですが、ご兄弟に保障された遺留分までは奪えません。お子さまの遺留分は、法定相続分の2分の1です。
先ほどの例で考えてみます。持戻し免除をしたうえで預貯金1,000万円を半分ずつ分けると、次男の取り分は500万円。一方で遺留分は、持ち戻した4,000万円の4分の1にあたる1,000万円です。つまり500万円足りません。相続人への贈与については、相続開始前10年以内にされた特別受益にあたるものが遺留分の算定に入ります(民法1044条)。10年より前の贈与なら当然に外れる、と単純化できる話でもないため、時期の判断は弁護士に確認しておきたいところです。
そして2019年7月に施行された改正以降、不足分は遺留分侵害額請求として金銭で請求される形に整理されました(民法1046条)。改正前のように家の持分を分け合って共有になるのではなく、お金で払わなければならないということです。手元の資金が足りなければ、せっかくもらった実家を売って支払いに充てる、という結末もありえます。贈与の目的が「長男に住み続けてもらうこと」だったのに、結果として家を手放すことになる。これがいちばん避けたい形だと考えています。
名義を動かす前にしておく3つの準備
1贈与の理由を、親御さんご自身の言葉で家族全員に伝えておく
同居して介護を担ってくれている、事業を引き継いでくれている。そうした事情は、ご本人の口から語られてはじめて納得につながります。亡くなったあとに書面だけが出てくると、どうしても「言い含められたのでは」という疑いが生まれます。全員が顔を合わせる場で一度でも共有できていれば、揉め方の質がまったく変わります。
2遺言で、持戻し免除の意思と他のお子さまへの配分をセットで残す
持戻し免除だけを書いても、遺留分の不足はそのまま残ります。そこで、預貯金の配分や生命保険の受取人指定など、他のお子さまに回る原資をあわせて設計しておくことが現実的な対策になります。生命保険金は原則として遺産分割の対象外とされますが、金額が大きすぎる場合には特別受益に準じて扱われた裁判例もあります。配分の設計は、弁護士・税理士と一緒に組むのが安全です。
3遺留分の事前放棄は、家庭裁判所の許可が必要と知っておく
「次男も納得しているので念書をもらっておきます」というご相談をいただくことがありますが、相続開始前に遺留分を放棄するには家庭裁判所の許可が必要です(民法1049条)。ご兄弟間で交わした念書だけでは効力がありません。許可の申立ては放棄する本人が行うもので、親や他のご兄弟が代わりに進められるものでもありません。ここを誤解したまま贈与を実行してしまうケースが、いちばん後で揉めます。
3つの言葉の違いを表で整理する
特別受益・持戻し免除・遺留分侵害額請求は、似た場面で登場するため混ざりやすい言葉です。どこまで親御さんの意思で動かせるのかを軸に、整理しておきます。
| 項目 | 根拠 | 何が決まるか | 親の意思で変えられるか |
|---|---|---|---|
| 特別受益の持ち戻し | 民法903条 | 遺産分割での各自の取り分 | 免除の意思表示で変えられる |
| 持戻し免除の意思表示 | 民法903条3項・4項 | 贈与分を遺産に戻さない扱い | 親の意思そのもの。遺言が確実 |
| 遺留分侵害額請求 | 民法1044条・1046条 | 不足額を金銭で支払う義務 | 変えられない。放棄は家裁の許可が必要 |
大阪市西区の実家は、金額が想像より大きくなりやすい
ここまでの計算を、ご自身の実家に当てはめてみてください。遺留分の算定にあたっては、相続開始時の時価を基準に評価するのが原則とされています。固定資産税の納税通知書に載っている評価額や、相続税の計算に使う路線価とはまた別の物差しです。ご相談のなかでも、「固定資産税評価で考えていたら、実際は倍近かった」という驚きは珍しくありません。
とくに大阪市西区は、靭本町・京町堀・阿波座のように本町や中之島のオフィス街へ歩いて通える立地が広がっており、新町・南堀江は住宅需要が根強いエリアです。建物が築古になっていても土地の評価が高く出やすく、更地としての値付けで考えると想定を超えることがあります。区分マンションでも、駅徒歩圏と管理状態がそろっていれば中古市場での評価は落ちにくい傾向です。
つまり西区の実家では、遺留分の不足額そのものが数百万円から1,000万円規模になりうるということです。長男に手元資金がなければ、その支払いのために家を売らざるを得なくなります。だからこそ、名義を動かす前にいまの実勢価格をおおよそ押さえておくことに意味があります。弁護士に配分を相談するにも、税理士に税額を見てもらうにも、出発点になる数字は不動産の価値です。私たちがお手伝いできるのは、まさにこの部分です。
よくあるご質問
Q. 10年以上前の贈与なら、遺留分の計算に入らないのでしょうか?
相続人への贈与は、相続開始前10年以内の特別受益にあたるものが遺留分の算定に算入されます(民法1044条)。ただし、当事者双方が遺留分を害することを知って贈与したと評価される場合など、期間にかかわらず算入されうる場面もあります。遺産分割での持ち戻し自体には期間制限の定めがないことにも注意が必要です。時期だけで安心せず、弁護士に具体的な事情を確認してください。
Q. 長男が家を売らずに遺留分を払う方法はありますか?
手元資金で払えない場合、金融機関の不動産担保ローンで資金を作る、裁判所に支払期限の猶予を求める(民法1047条5項)、話し合いで分割払いに合意するといった選択肢が考えられます。いずれも返済負担が残るため、贈与の前に預貯金や生命保険で原資を用意しておくほうが現実的です。担保評価の目安が必要な段階でしたら、いまの価格の見立てをお手伝いできます。
Q. 贈与ではなく親子間売買にすれば、特別受益にならないのでは?
適正価格での売買であれば贈与とは異なる扱いになりますが、相場から大きく外れた安い価格で売ると、差額が実質的な贈与とみなされる可能性があります。税務上はみなし贈与として課税される可能性があり、遺産分割の場面でも特別受益に準じて扱われる余地が残ります。価格の妥当性を説明できる資料をそろえておくことが前提になります。
名義を動かす前に、いまの価値を確かめませんか
大阪市西区の実家について、「いくらで売れそうか」「将来売りにくい条件はないか」を宅地建物取引士が正直にお伝えします。遺言や遺留分の判断は弁護士・司法書士、税額は税理士の領域ですので、必要に応じて専門家へのおつなぎもいたします。ご相談だけでも構いません。
関連情報
- 対応エリア:大阪市西区(靭本町・新町・南堀江・京町堀・阿波座ほか)および大阪市内全域
- 遺言・遺留分・遺産分割の法的判断は弁護士、登記は司法書士、贈与税・相続税の税額は税理士の業務範囲です
- 本記事は2026年10月時点の法令にもとづく一般的な整理です。個別の事情により結論は変わります